H. Takegami and T. Morinari, “Static and dynamical spin correlations in the Kitaev model at finite temperatures via Green’s function equation of motion” がPhysical Review Bに掲載されました(Physical Review B 111, 054413 (2025)).Kitaev模型は,基底状態の厳密可解性と量子コンピュータへの応用の可能性から注目されている量子スピン液体のモデルです.本研究では,従来のMajoranaフェルミオン手法とは異なるアプローチとして,spin Green関数の運動方程式を用いて有限温度での特性を解析しました.この手法により,スピン相関,磁化率,動的スピン構造因子といった物理量を統一的に計算することが可能となり,Kitaev模型の熱力学的挙動について新たな洞察を得ることができました.磁場や非Kitaev相互作用を自然に取り入れることができるため,次なるステップとしてKitaev模型の候補物質への適用を目指します.
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北海道大学で開催された日本物理学会第79回年次大会にて,M2の武上響生さんがGreen関数の運動方程式を用いたKitaev模型の解析について発表しました.森成は有機Dirac電子系におけるアクシオン電磁応答について発表しました.多くの興味深い講演と,議論していただいた方々のおかげで,今後の研究目標が明確になりました.久々に懐かしい方々ともお話しできて,たいへん有意義な時間を過ごせました.
7月24日の人環物性セミナーは,東京大学生産技術研究所の井村健一郎先生を講師にお迎えして,非エルミート量子力学について講演していただきました.井村先生はトポロジカル絶縁体で顕著な業績を挙げられ,最近は非エルミート系についての研究を推進されています.東京大学生産技術研究所の羽田野直道先生と共著で,「非エルミート量子力学」と題した専門書も出版されています.講演は親しみやすいイントロから始まり,非エルミート系の局在問題,many-body localizationへの応用,entanglement entropyとcentral chargeの関係など,高度な内容まで説明していただきました.
修士2年の武上響生さんの論文がJPSJに出版されました(J. Phys. Soc. Jpn. 93, 083703 (2024)).基底状態が厳密に解け,Majorana粒子が存在すると予想されているKitaev模型を,スピンのGreen関数の運動方程式を用いて解析した論文です.この手法を用いて計算した相関関数の温度依存性は,高温領域では高温展開と一致し,絶対零度では厳密に知られている値に極めて近い値を示します.エネルギーの温度依存性は,モンテカルロ法で生成したZ2ゲージ場中を遍歴するMajorana粒子で計算した結果とよく一致します.さらに,ある種の有限温度の相関関数が恒等的にゼロになることも厳密に示せます.これらの結果により,Green関数の運動方程式の手法が,Kitaev模型の解析にとても有効なことがわかりました.
笹本大樹さん,中村優希さんが大学院修士課程を修了されました.笹本さんは,当研究室で推進している研究手法の開発に多大な貢献をされました.中村さんは,量子異常に関する実験結果を見事に説明する理論を構築されました.
お二人とも在籍中に学術論文を出版し,すでに論文や学会等で引用されています.誠実な人柄と明るい雰囲気で,日々の研究室活動でも大いに活躍されました.これからの更なるご活躍を楽しみにしています.