研究内容
物質が示す多彩な現象を,理論的手法を用いて研究しています. 現在の主な研究テーマは,高温超伝導の機構解明, 固体中のディラック電子による輸送現象,強相関電子系などです.
銅酸化物高温超伝導
銅酸化物高温超伝導は,その発見以来,世界中で精力的な研究がなされて 来ましたが,未だに理論的な解明がなされていません. 電子間に強い相互作用が働く典型的な強相関電子系であること,電子の波動性(伝導電子)と粒子性(局在スピン)が絡み合った量子多体系であることなどが問題を非常に難しくしています.この難問に対して,当研究室ではスカーミオン理論 を提唱しています.この理論は,系にドープされたホールがトポロジカルな量で特徴づけられるスカーミオンとよばれるスピンテクスチュアを形成するという描像に基づいています.このような複合粒子を考えると,角度分解高電子分光で得られているFermi arcや,中性子散乱で観測されている非整合スピン相関,d波超伝導状態を安定化させるメカニズムなどを直感的に理解することができます.現在,スカーミオンの微視的な形成機構の解明と, スカーミオン励起描像による現象論によって様々な実験を説明する 相補的な2つのアプローチによってスカーミオン理論の確立を目指しています.
最近の成果としては,磁気トルク実験で観測された4回対称性の破れと反強磁性短距離相関の関係を理論的に示しました.単に実験データを定量的に説明しただけでなく,スピン帯磁率との関係を明らかにした点が重要です.(一種のスケーリング則が成立.)
高温超伝導体のCuO2面においてホール周りに形成されるスカーミオン | スカーミオン理論による高温超伝導の擬ギャップ |
固体中のディラック電子
固体中の様々な励起状態を調べると,相対論的なエネルギー分散が至るところに現れます.反強磁性体のスピン波励起や,BEC状態における集団励起などです.これら集団励起とは異なり,一体のレベルで相対論的な記述が必要になる場合があります.グラフェンでは,固体中の電子が相対論的なディラック電子として振る舞います.このような相対論的なエネルギー分散は,フェルミエネルギーから離れていてもよければ,ありふれたものです.しかし,グラフェンではフェルミエネルギー近傍で相対論的なエネルギー分散が存在しており,ディラック電子の物理が実験的に検証できます.このようなディラック電子は有機導体でも実現しており,磁場下での量子輸送現象にディラック電子ならではの特徴が現れます.当研究室では,実験の研究室と協力して,ディラック電子による新現象の開拓を進めています.最近の成果として,擬2次元系として振舞う有機ディラック電子系が,低温で3次元ディラック半金属状態となることを予言し,理論で予測していた量子異常効果が実験的に確認されました.
量子スピン系へのグリーン関数の運動方程式の適用
銅酸化物高温超伝導の発見以来,量子スピン系が精力的に研究されています.量子スピン液体状態が実現するとすれば,そこにキャリアをドープすることで高い転移温度をもつ超伝導状態が期待されます.我々はグリーン関数の運動方程式を用いて,量子スピン系にアプローチしています.この手法の長所は,スピン間の相関が短距離の場合にも適用でき,高温で正確な結果が得られることです.この手法を3次元反強磁性ハイゼンベルク模型に適用すると,量子モンテカルロシミュレーションで得られた転移温度に近い値が得られます.また,銅酸化物高温超伝導の擬ギャップ状態のように,長距離秩序がなく短距離相関のみ存在する場合の解析にも非常に有効です.
その他
他にも新物質の量子輸送現象やボース・アインシュタイン凝縮を用いたブラックホールアナロジーなどを研究しています.